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強国スペインから学ぶ、選手のフィジカルプランニング

スペインサッカーはなぜ強いのか──その理由は、フィジカルトレーニングに対する考え方が日本とまったく違う点にある。日本サッカーが体育の授業の延長であり、選手を"生徒"と扱うのに対し、スペインサッカーは選手をあくまで"選手"として尊重している。その証拠に、日本では前日に試合に出場した選手も出場していない選手も、翌日のトレーニングでは全員で同じメニューを行うことが多いが、スペインでは試合に出場した選手や故障中の選手など、「個々」に合わせた練習メニューが組まれる緻密さがある。


スペインにおけるフィジカルトレーニングの目的は大きく分けて2つ。「1シーズンを通して選手が向上すること」「試合で良い結果を残すこと」だ。当たり前のようだが、スペインではこの2つの目的達成に対するシビアな指導状況がある。


「スペインではどのクラブチームでも、毎週末になるとトップからジュニアまで年代毎のリーグ戦が行われる。選手の仕上がり具合もさることながら、実は指導者の指導力を測る試合でもあるのだ。ここで結果を残せない指導者は、クラブから首を切られる。つまり毎週末、指導者は自身の指導者生命を賭けて試合に臨むという、選手以上に過酷な状況にあるのだ」


この点においても、日本とスペインの指導者意識の違いが浮き彫りになっているように思う。指導者は、子どもたちにサッカー技術を教えるだけでなく、プロフェッショナルチームと同様に「結果」も残さなければならないのだ。


日本ではよく「試合には負けてしまったが、選手には良い経験になった」と話す指導者がいる。そんな話をスペインの指導者が聞いたら、「彼はなぜ悠長なことを言っているんだ? それで解雇にならないのか?」と驚くことだろう。スペインでは負けてしまっては"いけない"からだ。そういう意味では、サッカー技術・戦術重視のトップチームより、育成だけでなく勝利も課せられている育成チームの指導者の方が、より大きな重圧にさらされていると言えるかもしれない。だからこそ、育成チームの指導者が立てる『フィジカル・プランニング』は興味深い。


「スペインの育成チームの指導者は『週末の試合と選手の総運動量』のさじ加減が求められる。フィジカルを強化するメニューでありつつ、週末に行われる試合にも勝たなければいけない。その意識が大きく指導能力を左右しているのだ。

たとえば、今週末の対戦チームが格上であれば、試合当日に筋肉疲労などでコンディションが下がらないように"低負荷"のメニューで調整する。格下の対戦チームであれば、フィジカルを鍛える"高負荷"にするといった具合だ。

フィジカル強化のルーティーンは日本でも当然組まれているが、"対戦相手を見据えた"緻密なプログラムを組んでいる指導者はほぼいない。

フィジカルトレーニングは、がむしゃらにやれば鍛えられるというものではなく、また鍛えられたとしても『勝つ』という目的を果たさなければ鍛えた意味を成さない。とにかく指導者の采配こそが、選手の向上を勝利へとつなげる事になる」


■世界基準を知れば"選手"の扱い方がわかる


一方のスペインには、まずもって「部活」という文化がない。つまり、サッカー=選手であり、サッカーを選択した時点で子どもはプロとなんら変わらない"選手"なのだ。日本と海外のサッカー文化の違いは、ここにある。裏を返せば、日本は部活を含む手厚い教育制度の下で指導を受けられるという、ある意味恵まれた環境にある。しかしながら、部活を頑張っていればプロになれるのかというと話は違ってくる。確かに、高校野球ではドラフトによってプロ球団に入れる選手も少なくない。しかしこれは日本が作った野球文化だからこそ。サッカーというスポーツにおいては、幼少の頃から「プロ」を目指す徹底した選手管理がなされているのが世界基準なのだ。


「将来を嘱望される選手を多く抱えるビッグクラブでは、年代別のスペイン代表に招集されることがよくある。その選手は代表チームで試合を行うことで、自身が持つ能力以上のプレーを発揮しようと頑張るあまり、身体に大きな負荷がかかっている状態が続く。しかしクラブとしては大切なプレーヤーのひとり。その選手のコンディションを理解し、身体が故障しないよう、一週間のプレー時間にリミッターを設けている。その反対に、試合の出場機会がないなど運動量が足りていない選手たちには、練習試合を設定するなどしてバランス良く負荷がかかるように調整している」


日本でも、子どもたちが年代別の代表に選出されることがある。しかしクラブチームに所属せず部活に戻っていく選手たちの多くは、スペインほど細やかなコンディション調整を受けていないのではないか。つまり、スペインでは「プロフェッショナル集団による将来を見据えた育成」を行っているのに対し、日本ではそうしたケアを受けていない選手がまだまだ少なくないのだ。日本のサッカー文化を底上げするために、私たちはあらためてフィジカルの『プランニング』から見直す必要があるだろう。


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